CoaXPress のケーブル長
自分のシステムで使用できるケーブルの最大長は?
CoaXPress のケーブル 長に関する考察
CoaXPress 規格は、単一の同軸ケーブルを使用して、高速データダウンストリーム(通常カメラからフレームグラバー)、低速制御データ、および直流電源(フレームグラバーからカメラ)を伝送するように設計された、一般的な高速インターフェースです。2010 年に初めてリリースされてから今日まで、お客様や導入された方から最も多くいただいた質問の 1 つが「自分のシステムで使用できるケーブルの最大長は?」というお問い合わせでした。そして大抵は「条件によって異なる」と述べてきました。
この記事では、最大到達距離に影響を与える同軸ケーブルの基本的な特性、CoaXPress 規格の観点から見たこれらの特性の影響、そして最後に規格の制限を超えるソリューションを紹介することで、この質問にお答えしたいと思います。
同軸ケーブル: 減衰と周波数
同軸ケーブルまたは略して「同軸」は、並行したケーブル間の信号干渉を排除するために 19 世紀に開発されました。現代の同軸ケーブルは、高周波電気信号を送受信するために、ラジオ局から高速コンピュータシステムまで、幅広い用途で広く使用されています。
同軸ケーブルの最大長を制限している主な特性は、ケーブルに沿って起きる信号減衰です。通常、100フィートまたは100メートルあたりのデシベル(dB / 100 ftまたはdB / 100 m)で表現されるケーブル減衰は周波数に依存しており、言い換えると、送信される周波数に応じて変化します。
以下の図では、同じ用途分野を対象とする 4 つの異なるケーブルの典型的な減衰と周波数の曲線を見ることができます。この曲線は通常ケーブルメーカーが提供しており、ケーブルの対象用途分野で使用される周波数で減衰が測定されています。

上のグラフのケーブルAは直径わずか2.5 mmの細くて軽いケーブルで、4つのケーブルのうち最も高い減衰を示しています。ケーブルBとCの外径はいずれも7 mmですが、機械特性が異なります。ケーブル B は柔軟性を備え、ケーブルが動作中に複数の曲げサイクルにさらされる用途を対象としています。ケーブル C は通常、曲げサイクルがあまりない固定設置に使用されています。ケーブル D は外径 10 mmの太く重いケーブルで、全体的に低い信号減衰を実現しています。
| Cable Type | Cable Diameter (mm) | Mechanical Characteristic | Attenuation (comparison) |
|---|---|---|---|
| Cable A | 2.5 | Rigid (single core) | – – – – |
| Cable B | 7 | Flexible (stranded core) | – – – |
| Cable C | 7 | Rigid (single core) | – – |
| Cable D | 10 | Rigid (single core) | – |
システムで使用できる最大のケーブル長を調べるには、システムの受信機で許容される最大信号減衰を知る必要があります。たとえば、受信機が許容する信号減衰が 3000 MHzで-17 dBであるシステムでは、単純に目標周波数での既知のケーブル減衰を最大許容信号減衰(この場合-17 dB)でクロス乗算することができます。ケーブルA、B、C、Dの3000 MHzにおけるケーブルの最大長を計算すると、以下のようになります。
| Cable Type | Cable Attenuation (dB/100m) | Target Frequency (MHz) | Max. Signal Attenuation (dB) | Max. Cable Length (m) |
|---|---|---|---|---|
| Cable A | -120 | 3000 | -17 | 14.2 |
| Cable B | -52 | 32.7 | ||
| Cable C | -35 | 48.6 | ||
| Cable D | -23 | 73.9 |
この例でわかるように、「条件によって異なる」という回答がやはり正しいことになります。ケーブルに沿った信号減衰は、同軸の芯線の直径、芯線が単一の剛性銅導体で作られているか、柔軟性を高めるために撚り合わされているか、芯線の品質、絶縁材料など、複数の要因によって大きく異なります。 これを簡易的に分析すれば、細くて軽いケーブルは信号減衰がより高くなるためケーブルのリーチがより短くなりますが、太くて重いケーブルは信号減衰がより低くなるためケーブルのリーチがより長くなると言えます。ケーブルの品質と直径が同じである場合、減衰は機械特性によって異なります。
- より高い柔軟性(撚り線)= 減衰がより高くなる
- より低い柔軟性(単線)= 減衰がより低くなる
CoaXPress 規格におけるケーブルの長さ
前述のように、特定の周波数でのケーブルの最大長を計算するには、その周波数でシステム受信機が許容する最大減衰と、ケーブル内の対応する信号減衰を知る必要があります。CoaXPress 規格では、受信機側で許容される最大信号減衰だけでなく、ケーブルで許容される最大減衰も定義されています。その理由は、ケーブルメーカーがカメラやフレームグラバーなどの他の CoaXPress 認定製品と相互運用できる既成製品を認定できるようにすることで、認識度を向上させるためです。以下の表では、受信機とケーブルの最大許容高速信号減衰を示しています。
| CoaXPress Speed | Bit Rate (Gbps) | Frequency (GHz) | Attenuation @ Receiver (dB) | Attenuation @ Cable (dB) |
|---|---|---|---|---|
| CXP-1 | 1.250 | 0.625 | -22.0 | -21.2 |
| CXP-2 | 2.500 | 1.250 | -27.2 | -26.0 |
| CXP-3 | 3.125 | 1.5625 | -28.1 | -26.8 |
| CXP-5 | 5.000 | 2.500 | -22.6 | -20.9 |
| CXP-6 | 6.250 | 3.125 | -17.8 | -15.8 |
| CXP-10 | 10.000 | 5.000 | -23.4 | -20.8 |
| CXP-12 | 12.500 | 6.250 | -20.9 | -17.9 |
受信機とケーブルの最大減衰の差によって、ケーブルを受信機が許容できる最大長よりも数メートル短くする必要があるという安全マージンが生まれます。このマージンによって、CoaXPress 認定の既製ケーブルが認定フレームグラバーとカメラと相互運用することが保証されています。
ケーブルA、B、C、Dの例に戻ると、以下の最大長を取得できます。

やはりここでも、「条件によって異なる」という回答が正しいことになります。ケーブル C を例に見てみると、CXP-12 システムでは最大 34 m であるのに対し、CXP-3 システムであれば、同じケーブルで110 m まで到達できるのです。このことから、サポートされるケーブルの最大長は、システムパラメータの影響も受けることが明らかです。
CoaXPress 規格では、フレームレートコントロール(フレームグラバーからカメラへのアップストリーム)に使用される低速信号の最大許容減衰も定義されています。以下の表では、受信機とケーブルの最大許容低速信号減衰を示しています。
| CoaXPress Speed | Bit Rate (Mbps) | Frequency (MHz) | Attenuation @ Receiver (dB) | Attenuation @ Cable (dB) |
|---|---|---|---|---|
| CXP-1 to 6 | 20.833 | 30 | -4.9 | -4.74 |
| CXP-10 to 12 | 41.666 | 60 | -2.6 | -2.5 |
たとえば、ケーブル A、B、C、D の場合、低速信号の減衰は最大ケーブル長に影響を与えません。これは、これらのパラメータによって、高速減衰パラメータに基づくケーブルよりも長いケーブルが提供されるためです。CoaXPress には、同じケーブル内に高速信号と低速信号の両方がそんざいするため、ケーブルの長さは最も小さい結果に制限されることになります。下のグラフでは、最大許容低速信号減衰パラメータを使用した結果を示しています。

ケーブルに沿った信号減衰の他に、CoaXPress のケーブル長は、ケーブルの往復直流抵抗によっても影響を受ける可能性があります。その理由は、CoaXPress では、データ転送に使用される同軸ケーブルを通じてカメラに給電する可能性があるためです。この機能はPower over CoaXPress(PoCXP)と呼ばれ、最大電流703 mAに対して3.5 Vの電圧降下バジェットを持つため、最大往復直流抵抗は4.98となります。
このパラメータをケーブルA、B、C、Dの例に適用すると、以下の最大ケーブル長を取得できます。

これらの結果では、ケーブル A のような細いケーブルの場合、直流抵抗がより重要であることを示しています。すべてのCXP速度の直流抵抗は同じであるため、ケーブルAの最大長は19 mに制限されますが、ケーブルB、C、Dでは直流抵抗の影響がありません。
ようやく、高速、低速、往復直流抵抗によるケーブル減衰から得たすべての結果を使用して、以下の最大ケーブル長グラフを作成できます。

また、CoaXPress 規格に関し、規格文書に例として示されている最大ケーブル長によく誤解があります。CoaXPress 規格は、文書の中でBelden 1694Aを基準に使用してケーブル長に対する必要なパラメータの影響を説明しています。それを読む多くの方が Belden 1694A の結果を CoaXPress の長さ絶対的な最大ケーブル長と読み取っていますが、この記事で見たように、それは特定のケーブルに対する結果でしかありません。
既製のCoaXPressケーブル
実際には、CoaXPress の利用者が、ここで示されるようなケーブル長の分析を実施する必要はありません。CoaXPress 規格要件を尊重して既製ケーブルアセンブリを提供する企業がいくつもあります。 こういった企業の多くは、CoaXPress 規格を管理している日本インダストリアルイメージング協会(JIIA)に基づく自社ケーブルの認定も行っています。この認定によって、すべてのCoaXPressコンポーネント(カマラ、フレームグラバー、ケーブル)の相互運用性が保証されています。
以下は、既製のCoaXPressケーブルを提供している企業のリストです。
規格の制限をさらに超えて
第2世代CoaXPressイコライザ
CoaXPress 規格 v2.0 で CXP-10 と CXP-12 の速度が導入されたことにより、カメラメーカーやフレームグラバーメーカーは、ケーブルドライバーやイコライザなどのより高速なグレードのコンポーネントを利用して、最大12.5 Gbpsに到達できるようになりました。この第2世代のコンポーネントでは、非常に減衰した信号からシリアルデータを受信する感度がさらに高度になっています。この新しい世代のコンポーネントの登場により、初代のCoaXPressイコライザに比べ、CXP-1からCXP-6までの速度でより長いケーブルをサポートできるようになりました。たとえばEuresysでは、第2世代イコライザを使った CXP-6 において、72 m のケーブルでシステムが稼働することを確認しました。これはCoaXPress 規格が定義する長さの140%増です。
CoaXPress 規格で定義されているCXP-1からCXP-6の速度の最大減衰と第2世代のコンポーネントで取得した最大減衰に差が生じているのは、CoaXPress が提案した既製のエクスペリエンスによるものです。認定済みのCoaXPress ケーブルは、あらゆる世代の CoaXPress コンポーネントと相互運用できる必要があり、CXP-6 での 72 m ケーブルの場合、同じケーブルは初代の CoaXPress イコライザでサポートされていません。
より感度の高い第 2 世代のコンポーネントを利用するシステムは、既製のケーブルではなくカスタムケーブルを使用する必要があります。これらのカスタムケーブルには、システムインテグレーターだけでなく、カメラとフレームグラバーのメーカーによる機能検証が必要となります。
CoaXPress-over-Fiber
長距離に対応するための最も経済的なソリューションは、転送媒体として光ファイバを使用することです。光ファイバケーブルは同軸ケーブルよりもはるかに軽量でそれほど高価ではない上、非常に長い距離にわたって非常に高い帯域幅を提供できます。
CoaXPress の拡張規格として CoaXPress-over-Fiber が導入されたことにより、規格に定義されている同軸のケーブル長を超えた簡単なソリューションを利用できるようになりました。光ファイバの仕様には、ケーブルの混雑の軽減、EMI 耐性、速度の向上といった他のメリットもありますが、これらのトピックについてはこの記事では言及していません。また、光ファイバでは、同軸ケーブルによるPoCXPのような給電は不可能であることにも注意してください。
同軸ケーブルの最大長を超えるファイバソリューションには 2 つあります。1 つは、CoaXPressover-Fiber 規格に完全に基づくシステムで、カメラとフレームグラバーの両方が規格に準拠し、ファイバで直接相互接続されるソリューションです。もう 1 つは、同軸ケーブルベースのCoaXPress カメラを CoaXPress-over-Fiber フレームグラバーに接続できるコンバータを使用したソリューションです。いずれのソリューションでも、数メートルから数十キロメートルまで、フルレンジで光ファイバケーブルの長さを使用することができます。
